「九幽聖典」の中巻が開いたことにより、貢穆烈（こうぼく・れつ）が、戦死したとされる父・貢穆浩（こうぼく・こう）の行方を探るために墟霊境を訪ねた時の様子が判明した。貢穆山（こうぼく・さん）は、重明（ちょうめい）が息子の生存を匂わせるような発言をしたことに、わずかな希望を抱くのだった。一方、中巻のおかげで、徐々に秦烈（しん・れつ）と凌語詩（りょう・ぎょし）の素性が明らかになってはきたものの、依然として謎は残されたままで…。

李牧（り・ぼく）と段千劫（だん・せんきょう）は、巫虫を使って黒玉城で騒ぎを起こした黒巫教の夜憶皓（や・よくこう）を捕らえた。しかし、民を蝕んでいる第一巫虫は、巫主・江厭（こう・えん）の死後は消息が途絶えたはずで、憶皓ごときに育てられるわけがない。誰の指示か、目的は何かと厳しく問い詰められる憶皓。すると彼は“時は来た”と不敵に笑いながら李牧の手をつかむのだった。その行動が憶皓の策略だとは、誰一人知る由もなく…。

赤焔の火で製錬した霊器である勝邪（しょうしゃ）。貢穆（こうぼく）家に帰順したこの剣は、使い手である貢穆烈（こうぼく・れつ）の残虐さの影響を受けることで強い殺気をまとい、殺戮の道具に成り下がっていた。勝邪の苦しみや怒りを感じ取り、大地の力で殺意を取り除いて本来の姿に戻したのが無純（ぶしゅん）である。そして、ここまで秦烈（しん・れつ）を守り導いてきた李牧（り・ぼく）こそが、この勝邪だったのだ。眠りから目覚めた勝邪は…。

黄金勢力の者たちと戦っている最中、危機に陥ったはん・せんせんをかばい斬り伏せられた以淵（いえん）。息絶えた彼を不安そうに見つめる蓮柔（れん・じゅう）に対し、以前、謎の人物に刺し殺されたものの、しばらくして以淵が何事もなく目を覚ました様を目の当たりにしているせんせんは、今回も絶対に生き返るはずだと信じるのだった。その頃、以淵の意識は“あの時”と同じ場所に来ていた。彼の目の前には見覚えのある子供が…。

「また生き返ったんだよ」――以淵（いえん）は、そばにいたはん・せんせんに抱きつきながら喜んだ。せんせんもうれしい反面、蓮柔（れん・じゅう）の目があり、気まずくて仕方ない。一方の蓮柔は、笑みを浮かべつつも、以淵の想い人が自分から彼女に変わってしまったことを密かに寂しく思うのだった。その後、秦烈（しん・れつ）、以淵、せんせん、蓮柔の4人は、第一巫虫に侵されている凌語詩（りょう・ぎょし）の所へ向かうことを決めたのだが…。

“会いに来る”という約束を破った無純（ぶしゅん）に、貢穆烈（こうぼく・れつ）は腹を立てていた。来なかった理由を尋ねてもはぐらかされ、“君も皆と同じ意気地なしの偽善者だ”と吐き捨てる貢穆烈に、会うのを禁じたのは私だと無純の母・重明（ちょうめい）が言う。それと同時に、かつて貢穆烈の父母である人族の貢穆浩（こうぼく・こう）と、神族の玄珞（げんらく）が恋に落ちたことで何が起きたかを話して聞かせた。すべてを知った貢穆烈は…。

“大事にしてくれる相手を探すと約束して”。以淵（いえん）は、凌萱萱（りょう・けんけん）の手を握り、彼女をまっすぐ見つめながら告げた。その言葉が別れを意味していると悟ったうえで、当たり前だと強がる萱萱。しかし、その視線は寂し気に揺れている。もう行かなければと立ち去りかけた以淵が、再び振り返って言った。「心は変わるもの。また誰かを愛していいんだよ」。彼の言葉に、分かってるからと答えたところで目を覚ました萱萱は…。

夜仙児（や・せんじ）は、わざと凌語詩（りょう・ぎょし）に自分の策略だと見破らせただけでなく、意識下におびき寄せ足留めまでしていた。何がしたいのかという語詩の問いに、仙児はゆっくり目を閉じながら、「もうすぐよ」と笑みを浮かべるのだった。一方その頃、仙児の作った幻覚の中では、秦烈（しん・れつ）が素羅界の殺修相手に1人で戦っていた。その姿に心を動かされた杜少揚（と・しょうよう）は、四大霊器として覚醒することを決め…。

人と妖の暮らす花間（かかん）島で、人間の穆遠（ぼくえん）は精霊の小満（しょうまん）を巡って蛟龍玄王（こうりょうげんおう）と戦い、魂を砕かれてしまう。小満は神仙になるのを諦め、愛する穆遠を転生させるために霊力を注ぎ込み、来世で夫婦になろうと約束する。それから千年後、美食の島として知られるようになった花間島で、小満は麺館を営むりくげつじという料理人に生まれ変わる。

花亦南（かえきなん）の暮らす島主府に忍び込んだげつじは、書房で屋敷と麺館の権利書を探すが見つけられず、亦南に見つかってしまう。げつじは海賊から救ってもらったので、お礼に来たとごまかすが、げつじを妻にしたい亦南はチャンスとばかりに迫ろうとする。急速に近づく２人だが、そこへ亦南の姉である花雨曼（かうまん）と、幼なじみの蘇棠（そとう）が訪ねてくる。

亦南はげつじの病を案じ、南澤（なんたく）という鬼医（きい）の医術について探ろうとする。亦南がげつじの父を助け、店と屋敷を買い戻してくれたことを知ったげつじは感謝するものの、やはり婚姻には同意しない。島主府で亦南と２人きりになったげつじは本心を語り、亦南はげつじの思慮深さに心打たれる。そんな中、島主府に賊が出たという騒ぎが起こり…。

げつじへの想いを断ち切れない杜若（とじゃく）は、げつじの父が飲む処方薬に疑念を抱いて島主府へ急ぐが、途中で蘇棠と口論になってしまう。杜若は亦南のたくらみで薬に毒が盛られたと訴えるが、実は病を完治させるための処方であり、杜若の誤解だと判明する。申し訳ない思いを抱えたげつじは、亦南の恩に報いようと、ついに婚姻を受け入れる。

ようやく床入りした亦南とげつじだが、タイミングが合わず初夜を迎えられない。それでも亦南はげつじを慈しみ、心を開いてくれたげつじに感謝して、母の形見である金羽鸞（きんうらん）のかんざしを贈るのだった。無事にげつじを娶ったことで、いよいよ正式に島主を継いだ亦南は、先代島主の遺言書にもう１つ重大な決まりが書かれているのを知る。

げつじは亦南の機嫌を直すため、島主夫人としての特訓を懸命にこなす。亦南に避けられる理由が分からず落ち込むげつじは、麺館で働く小蟻（しょうぎ）に相談する。小蟻から亦南への恋心を指摘されて戸惑うげつじだったが、仲直りのため、おしどりの折り紙を贈って想いを伝えることにする。そんな中、げつじは街で出会った男に母親の雲婉兮（うんえんけい）と見間違われる。

げつじは母を知る董双喜（とうそうき）に再会する。董はげつじに、雨曼の前で雲婉兮の名を出さないよう忠告し、「自分は死んでいる」という謎の言葉を残して立ち去る。亦南は隠居しているはずの董がげつじを訪ねたと知り、過去を知る董を花間島から追い出そうとする。一方、雨曼は実母の祠堂を参拝すると言いだし、げつじにも参加するよう言いつける。

御食尚司（みけしょうし）として島に戻った杜若が、視察を口実にげつじを連れ出したので、亦南は面白くない。杜若は雲婉兮と花間閣の関わりについて情報を仕入れており、げつじは母親の過去とつながる花間閣に興味を持ち始める。一方、南香（なんこう）国に戻った宋晏（そうあん）も花間閣の名簿を入手し、初代島主の花見山（かけんざん）が、雲婉兮を娶るつもりだったことを知る。

げつじは李雲月（りうんげつ）という偽名を使い、花間閣の料理人として働くことに。料理の腕をふるいながら、母親の件を探ろうする。亦南はげつじが働くことをしぶしぶ認めるが、島主府を抜け出した罰を与えると言い渡す。新米の料理人にもかかわらず、島主と御食尚司に特別扱いされる“雲月”は初日から注目を集め、次第に杜若との仲を疑われ始める。

想いが通じた亦南とげつじは改めて床入りするが、げつじは激しい鼓動を感じて気を失う。翌日には元気になり、花間閣の仕事に復帰するげつじだが、雲月を嫌う竇管事（とうかんじ）に雑用ばかり押しつけられてしまう。そんなげつじを心配し、雑用を亦南の指示だと思い込んだ杜若は、文句を言いに乗り込んだ島主府で、げつじの深刻な病状を知らされる。

げつじが亦南と初めて出会った浜辺での思い出を語っていると、亦南は気を失ってしまう。亦南はげつじの病を心配し、寝る間を惜しんで医師と話し合っていたのだった。亦南の過労が自分のせいだと知ったげつじは献身的に看病し、添い寝をした末についに亦南と結ばれる。翌朝、亦南の熱は下がり、げつじも普段と変わりない様子だったのだが…。

げつじが雲婉兮の娘だと知った雨曼は激高するが、亦南は事を荒だてないよう頼む。雨曼は財産譲渡同意書にげつじの署名をもらうことを条件に、婚姻の嘘を黙っていると約束する。一方、母親殺害の真相を探っていた宋晏も新たな事実を知って動き出す。そんな中、花間島は想い人と過ごすロマンチックな採青（さいせい）節を迎え、浮き足立っていた。

亦南は雨曼にげつじが署名した財産譲渡同意書を渡す。そんな中、花間閣の廊下で休憩中の杜若は蘇棠にぶつかり、けがをした蘇棠を優しく手当てする。一方の宋晏は亦南に関する調査を進めており、亦南の寵愛するげつじの素性を調べることに。宋晏はいよいよ亦南との対面を果たすため、寺の住職を連れて花間閣へと乗り込むのだった。

雨曼はげつじが花間寺の素食を手がけることに乗じて、住職から過去の話を漏らそうと画策する。その頃、宴の準備に追われていたげつじは、うっかり包丁でけがをして住職を迎えに出られなくなる。住職に同行した宋晏はげつじを別の部屋へと呼び出し、雲婉兮の話を吹き込もうとするが、住職の通されたもう１つの客間で騒ぎが起こり…。

亦南の母である嘉寧（かねい）公主の悪事を知ったげつじは、亦南にどう向き合えばいいのか分からず戸惑う。一度は胸に秘めたままでいようと決めたげつじだったが、財産譲渡同意書に疑問を持ったことから、婚姻の真相と亦南の嘘を知ることに。ショックで島主府を飛び出したげつじは大雨の中をさまよい、偶然出会った杜若と蘇棠に助けられる。

島主府でげつじを引き止めようとする亦南だが、げつじに激しく拒絶され倒れてしまう。亦南はかつてのげつじと同じ心臓の病で、命も危うい状況となる。病をうつしたことに責任を感じるげつじは、亦南を救うため鬼医の南澤を探そうと宋晏を訪ねる。亦南の病状を知った南澤は、病に乗じて目的を果たそうとたくらみ、げつじの前に現れる。

島主府を出て麺館で働くげつじを杜若と蘇棠が手伝っていると、亦南が再び倒れたという知らせが入る。慌てるげつじの前に南澤が現れ薬を手渡すが、げつじは一時しのぎではなく、病を完治させる方法はないかと尋ねる。南澤に「房事によってげつじと亦南の魂を１つにする必要がある」と言われたげつじは、病を治すため亦南と会う決心をする。

杜若は寿宴を最後に花間閣を辞す決心をする。それを知った蘇棠は心中穏やかでなく…。一方、皇帝の誕生日を祝う寿宴のため、南香国から皇子がやってくる。亦南たちが出迎えた皇子の正体は、なんと宋晏だった。亦南は宋晏が身分を隠していたことや、突然去ったことに疑問を抱きつつ、げつじが行方不明になっていることを明かす。

花間閣で宋晏を歓迎する宴が始まり、湯盈盈（とうえいえい）が美しい舞を披露する。舞の途中で盈盈の顔を覆っていた面紗が外れ、げつじそっくりの顔が現れる。亦南は思わず盈盈を抱きしめ、盈盈の怒りを買ってしまう。宋晏は旧友の盈盈をげつじに会わせるため連れてきたと説明するが、亦南は盈盈の正体はげつじではないかと疑い、真相を探ろうとする。

寝所へと運ばれた盈盈は、部屋の中を見て、亦南に女の出入りがあると誤解する。その頃、宋晏は雨曼を呼び出し、盈盈を娶るつもりだと話す。話は宋晏の母・寧嬪（ねいひん）と嘉寧公主におよぶが、雨曼は事情を知る由もなく、古参の侍女が動揺していることにも気づかない。宋晏のもとを辞した雨曼は亦南を訪ね、盈盈と関わらないよう釘を刺す。

亦南と杜若は盈盈の病気について医師に相談するが、手がかりがつかめず、盈盈を診察しようと企てる。一方の盈盈は蔵書閣の鍵を入手するため、げつじの記憶を取り戻したいという口実で島主府に近づく。２人で暮らした寝所で衣を手にする盈盈の姿を目にした亦南は、げつじへの気持ちを抑えきれなくなり、思わず盈盈を抱きしめる。

亦南が盈盈の目の前に島主府の鍵束を置いて去ったため、盈盈はさっそく蔵書閣に忍び込む。偶然開いた内苑の隠し部屋で錦嚢（きんのう）を探し当てた盈盈は、中の紙に“花間暖鍋（だんか）”という料理の作り方が書かれているのを発見する。その頃、亦南は南澤を捕らえ、盈盈と宋晏の結託を白状させる。南澤は盈盈の病気についても重大な情報を漏らす。