かつて天才画家と謳われた画壇を捨て、実業界に転身した村上春樹(森雅之)は、今では写真工業会社の社長として成功していた。妻房子(高野由美)との間に一男一女があり、息子圭吉(三橋達也)は父の会社の部長をつとめ、娘珠子(芦川いづみ)は幼い頃に病んだ小児マヒのため身も心も弱く、部屋に閉じこもって絵画に親しむ日を過ごしていた。恩師山口画伯の告別式で、春樹夫婦は山口の息子都築正隆(二本柳寛)に再会。現在彼はナイトクラブのマネージャーをしていた。圭吉の愛人久美子(新珠三千代)は、戦争で夫を失ってから酒場で働くうち、圭吉の世話を受けるようになった純情一途の女性である。正隆は自分と関係のあったシャンソン歌手三木原ミキ子(北原三枝)を、お坊ちゃん育ちの圭吉に接近させた。ミキ子はおもしのつけてない風船のような女で、圭吉は忽ち心を惹かれた。一方、商用で京都へ出かけた春樹は、戦時中、自分が下宿していた阿蘇家の娘るい子に会った。るい子は弟の学資を得るため、夜はバー、昼はヌード・スタジオで働いている健気さにうたれ、春樹は同家の二階を借りることにした。圭吉の心がミキ子に傾いたと知って、久美子は悲しみの余り自殺した。京都から帰った春樹は圭吉の不行跡と誠意のなさに、激しい怒りを覚えずにはいられなかった。そして春樹は周囲の反対を押し切って、家族と離れ、京都を定住の地に選んだ。古都に長く伝わる舞扇作りに老後の生きかたを見出したのである・・・・。
1956年/日本/111分
監督:川島雄三
脚本:川島雄三、今村昌平
キャスト:森雅之、高野由美、三橋達也、北原三枝、左幸子、芦川いづみ、新珠三千代