広告代理店に勤めるサラリーマン・桜井和明、37歳。周囲からはデキル男と評価されているものの、気が付けばただひたすらに仕事に没頭する毎日。ある日桜井はCM撮影で、周囲を深い雑木林に囲まれた古く美しい日本家屋へ赴き、そこで一心に花の絵を描く青年・水川蓉一と出逢う。19歳の蓉一は美大生で、この屋敷の持ち主でもあった。口を開けばぶっきらぼうで不愛想な蓉一は、幼い頃に高名な画家だった父と母を亡くしており、周囲の人間の期待のままに父親と同じように絵を描き、人付き合いもせず、屋敷に同居している従兄弟の竹生や菖太を心配させていた。他人への興味の薄さから親しい友人すらいない蓉一だったが、屈託なく話しかけてくる年上の桜井にだけは心を開き、いつしか自分の本音や亡父への思いを少しずつ話しはじめる。
ある夜、桜井と蓉一は水川家の広い庭のひと隅に、どんな花が咲くか分からない、古い一粒の種を植え、育ててみることにする。蓉一を想うと枯れ果てた心に水が潤びていくように感じる桜井。自分の難解な抽象画を初めて理解してくれた人である桜井に、信頼を寄せる蓉一。二人の気持ちは次第に絡み合ってゆくが、桜井は蓉一との年齢差や同性同士という現実にブレーキがかかり、彼の気持ちを受け入れることも、そこから先に進むことも出来ないでいた。
一方、まるで自分を避けているかのような桜井の行動に、今まで感じたことのない苛立ちを感じる蓉一は、ついに桜井に、彼の気持ちを問いただす。二人の関係はやっと一歩前進するかに見えたがその矢先、桜井に大阪転勤の辞令が下る。さらに、蓉一に好意を寄せる美大のクラスメイト・藤本も現れ――。お互いの将来を想えばこそ、はっきりとした答えが出せない二人に、刻一刻と決断の時が迫る。
2018年/日本/89分
監督:谷本佳織
脚本:高橋ナツコ
キャスト:渡邉剣、天野浩成、塩野瑛久、小原唯和、水石亜飛夢、本宮泰風