明治後期から大正を思わせる時代、美しい緑豊かな山あいに流れる、とある河。船頭のトイチは、川辺の質素な小屋に一人で住み、村と町を繋ぐための河の渡しを生業にしていた。様々な事情を持つ人たちがトイチの舟に乗ってくる。日々、黙々と舟を漕ぎ、慎ましく静かな生活を送っていた。こんな山奥の村にも、文明開化の波が押し寄せていた。川上では煉瓦造りの大きな橋が建設されている。村の人々は「橋さえできれば、村と町の行き来は容易になる」「生活しやすくなる」と完成を心待ちにしているが、トイチは内心、複雑な思いでその様子を見守っていた。そんな折、トイチの舟に何かがぶつかる。流れて来たのは一人の少女だった。トイチは少しの間その子の様子を見てやることにするが、それと同じ頃、トイチは渡し舟の客から、奇妙な惨殺事件の噂を耳にする。少女はどこからやってきたのか? どんな過去を背負っているのか? 少女の存在はトイチの孤独を埋めてくれてはいるが、その一方でトイチの人生を大きく狂わせてゆくことになる…。