「錦明竹」
骨董屋を経営しているおじ(以下、店主)のもとに世話になっている少年が店番をしていると、急に雨が降ってきて、ひとりの男が「雨宿りのために、軒(のき)を貸してくれ」と言って店に入ってくる。「軒先にいさせてくれ」という意味だが、小僧は言葉通りに受け取って「軒を持って行かれる」と勘違いしたため、おじが最近買ったばかりの高級な蛇の目傘を与え、「返してくれなくてもいい」と言って送り出した。このことを聞いた店主が「こういうときは『うちにあった貸し傘は、長じけ(=悪天候が続いたことによる酷使)でバラバラになりまして、使い物になりません。焚きつけにでもしよう、と思って、束ねて物置に放り込んであります』と言って断るんだ」と言って小僧を叱る。そんなことを何度も繰り返す。
店主が店を出たあと、ひとりの上方者らしい男がやって来て、早口で一気になにやらまくし立てている。
強いなまりの上、業界特有の符牒や省略語に満ちた上方者の言葉の意味を、小僧は理解できず、小僧は上方者の伝えようとする伝言をもう一度聞くが、結局飽きてしまい「おばさん、変な人が来た」と叫んで、店主の妻を呼ぶ。店主の妻も上方者の言葉がさっぱりわからない。上方者は同じ話を4回もさせられたあげく、クタクタに疲れ、逃げるように帰ってしまった。