「花見酒」
幼なじみの二人。そろそろ向島の桜が満開という評判なので「ひとつ花見に繰り出そうじゃねえか」と、話がまとまった。ところが、あいにく二人とも金がない。そこで兄貴分がオツなことを考えた。横丁の酒屋の番頭に三升借り込んで花見の場所に行き、一杯十銭で売る。
酒のみは、酒がなくなるとすぐにのみたくなるものなので、みんな花見でへべれけになっているところに売りに行けば必ずさばける。もうけた金で改めて一杯やろうという、何のことはないのみ代稼ぎである。そうと決まれば桜の散らないうちにと、二人は樽を差し担いで、向島までやって来る。着いてみると、花見客で大にぎわい。さあ商売だという矢先、弟分は後棒で風下だから、樽の酒の匂いがプーンとしてきて、もうたまらなくなった。
そこで、お互いの商売物なのでタダでもらったら悪いから、兄貴、一杯売ってくれと言いだして、十銭払ってグビリグビリ。それを見ていた兄貴分ものみたくなり、やっぱり十銭出してグイーッ。とやっているうちに、三升の樽酒はきれいさっぱりなくなってしまった。
二人はもうグデングデン。たるはもちろんまるっきり空。
三升の酒をみんな二人でのんじまったんだあ」「あ、そうか。そりゃムダがねえや」