人類が故郷の星を追われてから、気の遠くなるくらいの年月が流れた。新たな定住の地を探し求め、ようやく辿り着いた「約束の地」。そこは珊瑚と同じ形質を持つ地表が広がり、大気中に、これまで人類が感知したことのない「トラパー」と呼ばれる粒子が含まれる荒涼とした場所であった。人は、そこで生きるために大地を開拓し、「トラパー」を最大限に利用するため、巨大な塔を建設した。塔下には都市ができ、各塔をとりまとめる形で、統一政府「塔州連邦」は建国されたのであった。

…それから数世紀の時が流れた。

かつてこの地に大災害をもたらした「サマー・オブ・ラブ」と呼ばれる現象と、それに伴う混乱によって、不況に揺れる世界。人類は、過去の星間航海時代の産物である「賢人会議」と呼ばれる、意思統一決定機関を復活させた。そして、その混乱に終止符を打ったかに見えた。しかし……。

物語は、建設の熱狂もとうに醒め、過去に栄華を極めた基幹産業も廃れてしまっている塔国家「ベルフォレスト」から始まる。その郊外、祖父と二人暮しをしているレントンは、自分の置かれた現状に不満を持っていた。かつてこの地に大災害をもたらした「サマー・オブ・ラブ」を、自らの命と引き換えに止めた英雄アドロックの息子というしがらみ。そして、メカニック業を営む祖父のもと、選択肢のない決められた将来。
そんなレントンの唯一の救いは、トラパーを利用して、空中を滑空するスポーツ「リフ」をすることだった。彼は、憧れのリフライダーであり、若者たちのカリスマであるホランドのように、自由にかっこよくリフをして世界中を飛び回りたいと夢見ていた。いつか自分にも波が来る、そう信じて。